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思い出の書道筆【ベスト3】

思い出の書道筆【ベスト3】

(いい筆との出逢い方とは。)

書家

書家
片岡 青霞
プロフィール


 書道をはじめたての頃は誰もが用具を持っていないところからスタートを切る。一度用具を揃えてしまえば大抵やることができるが、最もさまざまな用途に合わせて使い分ける必要があるのが筆ではないかと思う。長く書道を継続していればそれなりに筆の本数が増えていくことはごく自然なことと言える。最初の一本の筆を手にしてから、もっと書けるようになりたいなと思う人ほど、所有する筆の本数は増えていく。筆を手にすることは最初の一歩となるため、筆を手にすることができない何かしらの理由(金銭的、モチベーション)を先に述べる方には残念ながら伸びしろは乏しいのかもしれない。時にはすこし背伸びをして先に筆を手にすることも必要となる。そんな経験を過ごしてきた過去がある方はいろんな意味で強い。それほどに書道を学ぶ上において筆を手にすることができるかどうかということは重要だと感じている。そんな今まで出逢ってきた筆の中において、最も思い出の書道筆ベスト3を紹介したいと思う。誰もが今ご自身が所有している筆の中で思い入れのものがあるかと思う。皆さん自身の書道筆のベスト3はどのようになるのか所有する筆を改めて見てみよう。

No.1 破空剣(久保田号)

破空剣(久保田号)157,500円

 広島県と言えば、書道の熊野筆が名産として有名である。現在では、書道筆よりも化粧筆としての人気のほうが高まっており、上質な毛質と柔らかな肌触りがとても魅力的である。

 書道の分野は、どのようなジャンルの作品を書くかにより筆の選定は大きく異なってくる。個人的に20代までは漢字多字数をメインとした作品書きをしていたため、それまで大字書(一字書)の作品書きをしたことが無かった。筆者の作品イメージを大字書と思う方もいるかもしれないが、自身の大字書デビューは30代からとなるため意外と歴は短い。これから新たな団体にて取り組んだことのない大字書の作品を書いていこうと思った矢先、まだ大字書用の筆を所有はしていなかった。そのため、広島へ筆を巡る旅も兼ねて旅行へ出掛けた。東京でもたくさんの筆に巡りあうことはできるだろうが、実際に見てたくさんの数に触れることができるのは、本場の広島だと思ったため出掛けることにした。

 いくつかの有名な書道用品店を訪ねてまわった。せっかく来訪したのだから筆を購入したいという思いがあったが、なかなかトキメくような筆に出逢うことができなかった。購入する気満々で訪れたのに、今回は筆を買わずに帰宅するかもしれないなと思っていた。そんな思いを胸にしながら最後に訪れたのが久保田号であった。久保田号と言えば創業百年を超える伝統の技が受けつがれ、特に筆の毛質がかなり良いという印象があった。いくつか筆を見せていただいた中に、ビビっときた筆が一本あった。軸には「破空剣」(はくうけん)と名が刻されており、軸やダルマも輝きを放ちとてもカッコイイ筆だなと感じた。穂の長さはやや短峰ではあったが、はじめて大字書をやるには穂が長いものでは扱うことが難しいだろうと思ったため、私にはちょうどいいのではないかと感じた。他の筆も見てみたが、やはり「破空剣」が気になって仕方がなかった。価格は157,500円。現金を入れてきた茶封筒の口を開き、はじめて大字書用の筆を購入した。これが「破空剣」との出逢いであった。大切に自宅へ持ち帰り、何度も筆の写真をいろんや角度から撮影したのを覚えている。それだけ嬉しく綺麗でカッコいい筆に惚れ惚れとした。心踊るような高揚感を感じていたのを今でも鮮明に覚えている。著者の中では間違いなく断トツNo.1で思い出の筆となっている。

No.2 青霞愛翫(實森誠実堂)

書道筆
青霞愛翫(實森誠実堂)120,000円

 大字書の作品書きをはじめてからすこし、最初に購入した「破空剣」ばかりを使用してきたが、一本の筆だけでは足りないと感じその間にいくつか本数を買い足してきた。作品書きは小さなものから大きなものへの過程を辿ることが大切なため、いきなり大きなものを書くのではなく、少しずつ段階を踏む必要があった。使用する紙をすこし大きくすると今所有している筆では最後まで墨がもたず、筆の大きさが足りないのを感じた。そのため、新たな大字書用の筆を求めることとなった。

広島県にある實森誠実堂。熊野筆作りに百余年、初代四郎さんから現役の4代目得応さんまで続く伝統工芸士による筆作りの名家である。ここの実森得応さんに大字書用に特注筆の制作をお願いした。店頭に並んでいるシリーズものの筆ではなく、筆の穂の長さや直径、毛質に至るまで完全オーダー制となるのが特注筆となる。依頼をしてから筆が届くまでの間、どのようなものが出来上がるのかとてもワクワクしながら心待ちにしていたのを覚えている。はじめて特注した筆は一切の無駄がなく、スッキリとした綺麗な軸に自身の名である「青霞愛翫」(せいかあいがん)と刻した。軸に名を刻む際に用いられる愛翫とは、古美術、工芸品に対して使用れることが多く、愛情を込めて慈しむ楽しむという意味合いがある。“一本の筆から一作生まれたら本望。”この筆だからこそ生まれた作品がいくつかある。そう思うと筆に対する愛着は益々増すばかりである。

No.3 柿沼翠流用筆(一休園)

柿沼翠流用筆(一休園)12,000円~16,500円

 書道の筆は決して大きな筆ばかりが主流ではない。普段の手習いとしては多くの人が半紙の臨書学習をしているため、半紙用として羊毛筆を使用している方がほとんどではないかと思う。臨書用の筆もこれまでにたくさんのものを使用してきているが、その中で最も良かったものが「柿沼翠流用筆」である。

丁寧に磨った墨ときめ細かな毛がよく絡み、反発力のあるバネやコシ、書いていて気持ち良くなってしまうほどの書きこごちの良さ。何より良い線質が出ることなどこれまでに使用してきた半紙用の筆でダントツ群を抜いているのが「柿沼翠流用筆」となる。一度、この筆を半紙用として使うと他の筆は使用できなくなるほど、それほどに書き心地の違いがわかるものとなっている。当時、広島県にある一休園と先生が何度もやりとりをして製作した筆であったと伺っている。同じ毛質で中・大・特大のシリーズがあるが、サイズ違いのものをすでに所有していても、先生からたまに筆の案内がかかった際には必ず購入をしていた。それほどにこの筆は素晴らしいと言える。著者だけではなく、何も知らない方が同じように使用しても同様の声を聞くことがあったため、話を盛っていないことが伝われば幸いである。

たくさんの筆に出逢うこと

書道筆

 思い出のある筆ベスト3として、破空剣(久保田号)、青霞愛翫(實盛誠実堂)、柿沼翠流用筆(一休園)を紹介した。どの筆にも思い入れがあり、とても大切なものとなっている。

いい筆と巡りあうための秘訣はあるのか。まずは、たくさんの数に触れることが大切だと感じている。情報収集としてはネットで調べたり、書仲間から教えてもらうこともできるため横の関係性は自身で築く努力をしよう。また、最もいい方法は実際に足を運び自分の目で見て筆に触れる回数を増やすことにある。触れなければ実際の感触はわからない。人から案内されたものだけをただ購入しているだけでは、いつまで経っても目利きが育たない。書道に興味関心がある人であれば自分で調べて勝手に出掛けているかと思う。たくさんの筆を見て、手に触れての経験を増やそう。書を志す方がこれから生涯において、忘れられないような思い出の書道筆と巡りあえますように。

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