
人はなぜ芸術を鑑賞するのか
(芸術鑑賞をすることで得られるものとは。)

書家
片岡 青霞
プロフィール
世の中にはたくさんの芸術がある。わたしたちの生活の中に自然に溶け込んでいるため芸術について改めて考えることは限りなく少ないかもしれないが、 芸術はいつの時代もわたしたちに大きな影響を与えてきた。見て、触れて、楽しむことができるため、芸術と鑑賞は常にセットになっていると言える。絵を描いている人は、単に絵を描いて終わりにしているかといえば決してそうではない。絵を描くという行為とは別に、美術館へ足を運び人の作品を見て鑑賞をすることで自身の学びをより深めている。芸術と鑑賞には深い関係性があり、自身で何かしらの芸術表現をしていない方であったとしても、鑑賞することを喜びに感じている人も多くいる。 今回は、人はなぜ芸術を鑑賞するのかという問いについて考察してみたいと思う。
芸術とは何か

まずはじめに、芸術とは何か。芸術とは、人間の感情や思考、想像力を表現し、美術的・精神的な価値や感動を生み出す文化活動のことを指している。また、活動を通して得られたその成果を総称して芸術としている。
表現者が自身の内面を様々な素材や技法を用いて形とし、それを鑑賞者が受け取ることで相互に作用している。芸術は、見る人の心に深い共感や気づきをもたらし感動を与える一方で、時に表現者の意志や意図次第によっては、真逆に作用することもある。芸術は作品を通じて人に感動を与えるものではあるが、作り手の技術や情報伝達という枠を越え、見る側に新たな視点や思考を促す力をもっている。故に、表現者が意図して制作した芸術作品が、必ずしもそのまま鑑賞者が受け取るとは限らない。鑑賞者一人ひとりによって、そのものをどのような視点で見て捉えるのかということは、鑑賞者自身に委ねられると言っても過言ではない。芸術には、人間の創造的な活動やそれによって生み出された「美」により心に深い共感をも生み出している。芸術を制作する者とそれを受け取る者の双方に、喜びがあると言えるのではないだろうか。
芸術の分野

芸術という作品制作と鑑賞によって精神の充実体験を追求する文化活動というものには様々なものがあり、視覚、音響、言語、身体・総合芸術などのジャンルに分けることができる。ここに列挙するものはほんの一部となるが、文化活動の視点からみると想像以上に数の多いことに驚くのではないだろうか。
| 芸術分野 | ジャンル |
|---|---|
| 視覚芸術 | 絵画、彫刻、写真、建築、工芸、書道 |
| 音楽芸術 | 器楽、声楽、作曲、指揮、オーケストラ |
| 音響芸術(サウンド・アート) | サウンド・ インスタレーション、 音響彫刻、 サウンドスケープ |
| 言語芸術 | 小説、詩歌(短歌、俳句、詩)、戯曲 |
| 身体・総合芸術 | 舞踊、演劇、映画、メディアアート、現代アートパフォーマンス |
視覚芸術とは、見て楽しむもののことである。 世の中にあるほとんどの芸術においては人間の五感にあたるこの視覚が共通のものとなっているが、自分の目で見て楽しむというもっともオーソドックスでポピュラーな楽しみ方の一つと言える。主に美術作品による、 絵画、 彫刻、 写真、建築、工芸などが該当し、書道も見て鑑賞するものにあたるためこのジャンルの中に含むこととする。
音楽芸術とは、音を通じて人間の感情や思想、 美的な価値を表現する芸術の形式のことである。器楽、声楽、作曲、指揮、オーケストラなどがこのジャンルとなる。
音響芸術とは、音を制作の素材として扱い、音そのものの体感や空間との関係性を主題とする芸術表現のことであり、別名サウンド・ アートとも呼ばれている。音楽のようにメロディーやリズムで感情を伝えるのではなく、 環境音や電子音などを通じて聞き手に空間そのものを体験させる芸術形態のことを指している。サウンド・ インスタレーション、 音響彫刻、 サウンドスケープなどがこのジャンルの中に含まれる。
言語芸術とは、言葉を表現手段として創造される芸術の総称のことである。言葉がもつ意味や響きを通じて読者や観客の想像力に働きかける。 小説、詩歌(短歌、俳句、詩)、戯曲などがこのジャンルとなっている。
身体・総合芸術とは、 複数の芸術要素が人間の身体表現を中心に統合された芸術形式のことである。舞踊、演劇、映画、メディアアート、現代アートパフォーマンスなどのことである。
芸術は、目で見て耳で聴き、時に触れることによって、私たちの五感に何かしらのインスピレーションを与えている。人の手によって創り出されたもので感動できる経験は、心を育み豊かにしてくれる。
芸術と鑑賞の切れない関係性
芸術と鑑賞には二人の登場人物がいる。一人は芸術を新たに生み出し世に発表する者、 もう一人は、その芸術を見て鑑賞する者の二人となる。
芸術を新たに世に生み出す者のことを、「作家」と呼称する。作家活動をしている人というのは、少なくとも何かしらのモノ作りを好んでいる方が大半であるかと思う。 作家は常に、日常生活を過ごしている中でモノ作りの素材やアイディアを探し求めている。時に自分の思うような制作ができずに苦しむことも多いが、新たなものを自分で生み出すということに喜びを感じている。作家は芸術作品の制作者であるが、同時に鑑賞者でもある。自身の芸術分野に限らず、多くの他の分野に触れる機会をもちあわせることで、心を豊かにし人格を高める努力をしている。専門職であるならば、その専門分野だけをやればいいと思う方もいるかもしれないが、それはもしかしたら三流の考え方かもしれない。作家は、常に学び続け作品を世に発表している。そのように考えると、同分野における鑑賞はさることながら、興味関心があるものや好きなものだけを趣味として捉えるということとは異なる。いい芸術作品を世に生み出したいのであれば、鑑賞をすることで自分の心を育てる時間を設けることは必須であると考えている。
芸術鑑賞が人に与えるもの

芸術作品を制作していない方であったとしても、芸術を鑑賞することが好きな方は世の中にたくさんいる。自分にはできないからと、そのものに取り組んでみようとまでは思わなくとも鑑賞することそのものは好きだという方たちのことである。見ることが好きということは、とても素晴らしいことだと感じている。芸術に触れることによっていい時間を過ごすことができ、心地いい余韻に浸ることができる。たくさんの芸術に触れている方こそ、感性が豊かな人が多いのではないだろうか。また、これまでは鑑賞のみをしてきたが、 最近になって何かはじめてみようと思った方もいるかもしれない。そのものの芸術に携わる作家からすると、こんなに嬉しいことは他にないのでないだろうか。自分もあのような作品が書けるようになるのだろうか、こんな表現をしてみたいと何かしらの形でその方に響くものがあれば本望である。
芸術鑑賞が人に与えるものはいつの時代も色褪せることがない。心の平安、充実感、満足感など、感性を磨き心を豊かにしてくれるものであり、芸術にはその力がある。作家は鑑賞に助けられている。これからも誰か一人の琴線に触れる作品を発表することができるよう努力したい。
