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案外知らない!書道筆に使用される様々な動物の毛の事情

案外知らない!書道筆に使用される様々な動物の毛の事情

(動物の毛を使用することで直面する問題とは。)

書家

書家
片岡 青霞
プロフィール


 書道は学んでいるが、自分たちが使用している用具のことに関しては案外知らないことが多い。書道用具の中でも特に重要なものとして筆がある。全国的にみれば書道筆は広島県が最も生産量が多いことで知られているが、この筆は一体何の動物の毛からできているのかまでは知らない方々も多いのではないだろうか。また、昔から筆はあったが現代では動物の毛を使用することで年々様々な声が高まってきている。それは一体どのような声なのか。現在、動物の毛を扱うことによって何の問題に直面しているのか。今回は動物たちの毛の事情に迫る。

書道筆に使用される様々な動物の毛

動物毛の特徴
馬毛は毛質が非常に硬く腰がしっかりしているため、安定感があり初心者の方にも使用しやすい筆とされているが、スッキリした線を引くには少々粗さが残ります。耐久性に優れていること、毛の長さが取れることから主に大筆に使用されています。全身の毛(たてがみ、胴、尾)を筆作成に使用することができます。
狸毛は弾力に優れた毛質となり、穂先がまとまりやすい特徴があります。少量の毛質でも弾力とまとまりがあるため、優美で繊細な仮名筆に使用されています。また、書道筆以外には、絵画や化粧筆にも用いられます。
鹿鹿毛はとても毛質が硬く弾力に優れていますがまとまりに欠け、線質はやや粗々しい線となります。まとまりに欠けることから穂先には使用することができず、主に筆の腰部分に使用されています。また、他の動物毛の中でも鹿毛は毛の根元が空洞になっていることから墨含みの良い特徴があります。
山羊山羊毛は一本一本が非常にきめ細かいため、固形墨との相性が最も良い毛となります。書道界では羊毛(ようもう)と呼称しますが、山羊毛の筆のことを指しています。線質は他の動物とは比にならない程柔軟で様々な線質を出してくれる特徴があります。柔らかいため使いこなせるようになるまで時間はかかりますが、一度羊毛筆を手にすると他の筆を使用することができなくなるくらい書の愛用者を魅了させます。最高級の毛質です。
イタチ鼬毛は馬毛などとは異なり、筆の原料として使用できる部位は尾の上側のみとなっているため非常に希少価値が高いものとされています。年々、入手困難な毛となっているため価格は軒並み高騰しています。毛も短いため主に小筆に使用されています。コシやハリに優れ馴染みやすくなめらかで細字向きです。
狐毛は剛毛と柔毛の中間くらいの毛質となり、イタチ毛と同様に毛の長さに限りがあるため主に小筆に使用されることが多いものとなります。
ウサギ兎毛は穂先が鋭く強い弾力を持ち合わせた毛質です。原毛は野ウサギとなり色味も様々です。なめらかで滑りは良いですが腰がやや弱いため他の毛と混ぜて筆作成に用いられます。ウサギの口ヒゲで作られた筆もあります。
書道筆に使用される動物の毛。この他にも猪、豚、コリンスキー、猫毛などがある。
特徴動物の毛
剛毛筆・毛質硬め、コシ、弾力あり。
・穂全体が茶色、黒色。
馬、狸、鹿、イタチ、狐、ウサギなど。
兼毛筆・2種類以上の動物の毛を混ぜたもの。馬、狸、鹿、イタチ、狐、ウサギ、山羊など。
羊毛筆・毛質やわらかい。
・穂は白色。
山羊。
書道筆3選(剛毛筆、兼毛筆、羊毛筆)

 古代中国で発明された書道筆は、文明の発展とともに海を越え日本へやってきた。一般的に書道筆のことを「毛筆」(もうひつ)と呼ぶ。 その名のごとく毛でできた筆のことである。この毛は人間のものではない。様々な動物の毛が使用され一本の筆が作られている。どのような動物の毛が使用されているのか。主に馬、狸、鹿、山羊、イタチとなるが、その他にも狐、兎、猪、豚、コリンスキー、猫毛など実に様々な動物の毛が採用されている。基本的に動物の毛であればどのようなものであっても筆にすることは可能であるが、採取量、耐久性、使いやすさ、適正、価格などが考慮されメインとして使用される動物の毛は大方決まっている。

 歴史を振り返れば、古代において最初の筆記用具は先が尖った鋭利な棒のようなものであった。文字を書くという段階にはなく刻むということが起源となっている。それを考えると筆がとても素晴らしい筆記用具であることがわかる。それは古くから庶民の筆記用具として重宝されてきた。現代においては、鉛筆やボールペンまであるではないか。私たちの使用する筆記用具の過程を辿ってみると実に面白いことがわかる。

筆づくりの基本。職人さんによる手作業

書を極める上で、羊毛筆を使いこなせるようになるかどうかは重要なポイントとなる。剛毛・兼毛筆とは全く異なるのが羊毛筆である。

 様々な動物の毛によって筆が作られているが、これらの筆一本一本は職人さんの手作業によって作られている。広島県熊野町といえば 「筆の都」「筆の里」と言われるほど江戸時代から伝わる筆の製造産業の中心地とされてきた。現代へも継承され書道メーカーや筆の里工房、伝統工芸士、筆まつりなど町全体に筆が浸透している。これらを使用する文化に携わる全ての人と筆は密接な関係性があり今でも根強いものとなっている。

 実際に書道を学んでいる方で職人さんの筆づくりの様子を生で見たことがある人の数はいかほどなのだろうか。話は聞いたことはあるが自分の眼で見たことがある人の数は少ない。書道が盛んであった数十年前には、たくさんの筆職人がいた。今でも筆職人はいるがそれでも時代とともに移り変わる変化を感じることは否めない。書道に携わる人が少なくなるということは、書道用具を必要だと感じ求める人の数が減ることを意味している。そうすると必然的に書道筆の生産量は低下することとなる。これに加えて、筆職人の高齢化や後継者問題、物価高騰などが拍車をかけ、職人の数も減少傾向となる。書道を学ぶ者にできることは、職人さんが丹精込めて丁寧に作られた筆を大切に使用することにある。“手にしなければ伸びしろも上達も何もない。”亡き師の言葉がふと頭をよぎる。筆を手にできない者は、書の才覚なしということである。

動物の毛を使用することでの問題点とは

なぜ、書道用具を大切にする必要があるのか。筆ができるまでの背景を想像してみよう。

 書道筆には私たちが皆知っている身近な動物の毛が使用されていることがわかった。毛の原料として採取できるのは動物の体の部位によっても異なる。これに加えて毛の長さや採取できる量など様々となる。また、同じ動物であってもその中から厳選された毛が採用されるため同じ動物なら何でもいいということではない。あくまでも筆の毛として原料となりうるものが適用となる。そう考えると、そこまで豊富に調達できるものではないことは容易に想像がつきやすい。

  昔から書道筆には動物の毛が使用されてきた。しかし、このことに対する問題は年々色濃くなってきている。世界的に声が高まっている動物愛護問題。勿論、その矛先は書道筆にも向けられている。では、昔から動物の毛が使用されてきたのに現代においてこの声がより高まっているのはなぜなのだろうか。 昔は人々が暮らす上で自分たちが必要な分だけの動物の命を頂戴してきた。それは人間が生きるために必要で適切な量であったと言える。しかし、昨今では人間の欲と利益がエスカレートし必要以上のものを欲するようになった。そのことによって食料廃棄や衣類(高級品毛皮コート)問題にも目が向けられている。欲と利益を追い求めすぎると何一つ好ましいことはない。すでに私たち一人一人が十分幸せであることを人間は自覚するべきである。

 動物の件に関して言えば、最近ではクマによる被害が記憶として新しい。 本来、山中で暮らしている熊が人里まで下りてきてしまっている。 町中を熊が平然とウロウロと徘徊するのも大変なことだが、人を襲い殺してしまっている事例が出ていることは大問題である。人間の生活圏内が脅かされ人が亡くなっているにも関わらず市役所には、“可愛い熊を殺すなんて!”“ なぜ殺した。武器を使うな。素手で対応しろ!”との講義電話も殺到したというのだから猿も木から落ちるほどの衝撃を感じる。動物を大切にすることはもちろん大切なことであるが、一度人を襲い殺した熊は人間の血と柔らかな肉の食感を覚えてしまうため再度人間を襲う。自分や家族、周囲の大切な人が襲い殺された時、講義電話をした方々は果たして同じ言葉が言えるだろうか。目の前で起きている事実を直視し、冷静に物事を見極める必要があるべきだと考慮する。 

未来のための筆づくり

広島県熊野町は全国No.1の有名な筆の生産地。書道筆に留まらず化粧筆としても知られている。

  先日、いつものように自身が10年以上愛用している小筆の注文をすると、何と納期まで一年以上かかるとの返答をいただいた。理由は、この筆は鼬の尻尾の毛を使用しているが、鼬の体の部分を使う毛皮のコートの需要が年々減少しているため、ここ数年質の良い鼬の毛を中国から安定して輸入することができなくなっているためとのことであった。以前も注文から納期までの期間が少しずつ遅れているのは感じていたが、ついに一年以上待ちとなってしまった。毛が無いのであればはじまらない。非常に良い小筆なので手元に届かないことはとても悩ましい。

 昨今では、 動物の毛を使用することで生まれるこれらの問題に対して化学繊維でできた人工毛を取り入れた開発に踏み切る動きが出てきている。これによって動物の毛の代用品としてカバーできると思われがちだが、実際の書き心地が異なれば筆を手にする人は増えない。 これまでの書き心地が体に染み付いているため筆致や線質の違いなどが生まれるためとなる。現段階においては動物の毛だけで作られた筆には及んでいないが、改良や改善はまだまだスタートを切ったばかり。今後の発展に可能性を秘めているものであるとは思う。どこまで近づくことができるか。この点には期待をしていきたい。

 筆本来のあるべき姿とは一体どのようなものだと言えるだろうか。これまで通り動物の毛だけに頼るべきか、それとも今後の未来を見据えて新たな開発へ着手するべきか。毛の問題はこれからも長く続きそうである。

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