そんなまさか!本当にあったミステリアスな体験レッスン
(習い事の先生が困惑した体験レッスンの実例とは。)
書家
片岡 青霞
プロフィール
書道を習いはじめようと思ったら、まずは体験レッスンが最初の入り口となる。体験レッスンを通じて書道をやるのか。この教室で習うのかどうかを決めることになるとは思うが、たまに体験レッスンで驚くような人が登場することがある。これは書道に関することだけではなく、他の習い事においても共通する点があるのかもしれない。10年間書道教室を運営してきた中で見たミステリアスな体験レッスンの実例を紹介しよう。
親が子どもの手を取って書く
友人や知人が習いに来てくれたというケースもあるかもしれないが、大抵の場合は体験レッスンを通じて初対面することがほとんどである。そのためお互いのことがよくわからない。体験レッスンとは、単にはじめての習字を体験するということだけではなく、 体験レッスンを通じてお互いを知る大切な時間となっているのである。
体験レッスンでは、講師の目の前に座り行えるようにしている。実際に体験をするのはお子さん。 親御さんは隣に座っていただきお子さんの様子を近くで見守る。教室の案内や説明等もあるので一緒に同伴していただくスタイルを取っている。どの教室も一番最初の体験レッスンでは、 講師の近くに座り体験レッスンをすることが一般的となる。
ここで大切なことなのでもう一度繰り返すが、体験者は親御さんではなくお子さん自身となる。子どもが実際に習字に触れ書いていく中で習字とはどのようなものなのかを体験する時間となっている。そんなことは分かりきっていると思えるかもしれないが、 体験レッスンにはじめて来て子どもが一生懸命書いているのに横から口を出しアドバイスがエスカレートする親御さんを何度も目にしたことがある。その声は次第に大きくなり、一枚を書き終える前に“あーだ、こーだ。”の横やりが入るようになり子どもの集中力も次第に切れていく。そう、黙ってお子さんが取り組む様子を見ていられないタイプの方である。ここからさらに熱量が高まっていくと、“先生のはこうなっているでしょ。もっとこうでしょ!”に変わっていく。 最終的には、上手に書けない我が子に苛立ちを覚え親御さんが子どもの筆を一緒に取り習字の作品を書く。子供が書いた作品の上から線を加え上手に書けているように見せるといった行為を堂々と講師の目の前で披露する。その様子を後ろに座って通常稽古をしている既存の児童生徒たちはとても不思議そうに見ていることもつゆ知らず。
講師からは目の前に座っている子どもの様子をはっきりと確認することができるが、この時子どもに笑顔は一切ない。 自分が子どもの後ろに回っているため子どもの表情を見ることができないために子どもは満足していると勘違いを起こしてしまうのである。親御さんが熱心に講師の目の前で我が子に指導する様子を私は見て見ぬふりをする。子どもに対してこの関わり方をしているのであれば、どの習字教室へ行っても伸びしろがないと思っているからである。子どもに対し家庭環境の中でどのような関わり方をしているのかを把握することはとても大切な点となる。 親御さんが指導できるのであれば、そもそも習字教室に通う必要はない。時間とお金を考えても経済的である。是非親御さんが我が子に直接指導してあげることをオススメする。
家族みんなでの授業参観
通常、 お子さんの体験レッスンをするのであれば、 体験者(子ども)+保護者1名が基本となる。 これは習字教室だけの話ではなく、通常の習い事であればどの習い事においてもほぼこのケースが通例であるかと思う。だが、世の中にはミラクルな人が存在することを忘れてはいけない。それは、両親や祖父母同伴、ご家族総出でお越しになるケースである。今日はピクニックなのか? それとも昭和の授業参観であろうか?? 体験レッスンで玄関を開けた先にこのような光景を目の当たりにすると、思わず今日は何の日か。と一瞬立ち止まってしまうことも致し方ないのではなかろうか。
例えば、これが大手で大きな施設で運営されている習い事なのであれば特に問題はないのかもしれない。しかし、書道教室というのは個人規模の小さなお稽古場で運営しているところがほとんどとなる。大豪邸で数百人一気に入室することができるお習字教室は個人規模では稀となる。これは想像力の問題であるとは思うが、そんな個人規模の小さな教室にはじめましての方がゾロゾロワイワイ、家族総出で 押し寄せてみたらどうだろうか。既存の生徒たちはどのように感じるだろうか。遠足と間違われてにぎやかに騒がれては、通常のお稽古に支障をきたしてしまうこととなる。大切な学びの時間の提供をいつも通り行うことが難しくなってしまうということとなる。 習字は少なからずとも集中して書きたいものである。 一般常識が問われている。
自分たちのことしか考えることができない場合、これまでの経験上トラブルメーカーに発展するケースが多い。丁寧に説明しそれでも理解を得ることができないのであれば、 お断りすることも大切な一つの選択となる。これはあくまでも適切な環境の中でお稽古を実施し既存の生徒さんたちを守るためにも必要なことであると考慮している。
予約後の無断欠席
体験レッスンの予約を入れても予定ができてしまいスケジュール変更やキャンセルの連絡が入ることがある。どの教室においても、一度はこのような連絡をいただいたことがあるかと思う。しかし、中には予約をしたにも関わらずノーショー。いわゆる無断欠席をしてしまう人がいる。
このような場合、予約した方が予約したことを忘れてしまっていたというケースも極稀にある。そのような時は、必ず後日相手側から連絡が入ることとなる。本当に忘れてしまったのかどうかということは、その方の言葉やトーンで判断することができる。 一方でノーショーで後日連絡なしの場合は、体験荒らしやそもそも人としての別問題となる。都内でアクセス好立地の場合と比べ田舎はとても狭い環境となる。同業者同士の横の繋がりがある場合、体験荒らしの名前は共有されることがあるため他の教室で受け入れてもらえないことがあることを知っておく必要がある。教室や講師によって関わり方はそれぞれ異なるが、 大抵の場合無断欠席をする方の再体験レッスン申し込みは如何なる理由においても取り扱ってはくれない。 お互いが気持ちよく過ごすことができるよう必要最低限のマナーを身につけておこう。何かを学び 習得するということはその後の話である。
10年も教室を運営していると、見学・ 体験レッスンのメール申し込みの時点でこの方が来るかどうかを判断できるようになる。きっと他にも同じような講師の方がいるのではないかと密かに期待をしている。私には特殊な霊能力は無いが不思議とわかるようになる。最近ではかなりの的中率のため自分でも驚く程のものとなってしまった。見えなさすぎ、わからなすぎることも困りものだが、見えすぎることも同様に困りものであるのかもしれない。
体験レッスンを通じて講師が見ているもの
世の中にあるたくさんの習い事の入り口として、体験レッスンが用意されている。 体験レッスンはどなたでも申し込みはできるが、人としてのマナーを持ち合わせていないとそもそも習い事をはじめることさえできなかったり、スタートを切ったとしてもすぐに辞めてしまったり、揉め事やトラブルを引き起こしてしまうなど様々なことが発生するケースがある。これは、提供する講師側にも同様のことが言えるため、お互いに抑えるべき点はおさえておく必要がある。
講師は、体験レッスンに来てくれたお子さんのことをもちろん見ているが、お子さんが上手に書けるかどうかということには重きを置いていない。 習字に興味関心があり習ってみたいと思ったから体験レッスンに来てくれたのであれば、お稽古を積み重ねれば次第に書けるようになっていく。それ以上に体験レッスンを通じて講師が見ているのは、親子の関わり方となる。子どもが習字教室に来て一ヶ月過ごす時間というのはほんの数時間である。子どもは家庭の中で最も多くの時間を過ごしている。家庭環境の中において親御さんが子どもに対してどのような関わり方をしているのかということは、何かを習得する上で最も重要で大きな影響を及ぼすことに繋がっている。そのため、講師は親子がどのような関わり方をしているのかに注目している。すぐに口や手を出すのか、それとも見守り待つことができるのか。 体験レッスンは様々なことを教えてくれている。