
これであなたも書けるようになる!習字のお手本の書き方5Step
(お手本が書けるようになるまでに取り組むべきこと)

書家
片岡 青霞
プロフィール
「習字のお手本が書けるようになりたい。」 将来、 習字の先生を目指す方も、そこまでは望んでいないが何かしらの理由でお手本が書けるようになりたいと考えている方々は世の中にいるかもしれない。そんな方々であれば、お手本の書き方をマスターする必要がある。習字を学べる場は存在しても、お手本の書き方を学べる場はなかなか目にすることがない。では、現役の習字の先生はどのようにしてお手本の書き方を学んできたのだろうか。 どのような点に気をつけながら習字のお手本を書いているのだろうか。今回は習字のお手本が書けるようになるまでの流れを5ステップで紹介してみようと思う。
Step1.正しい筆の持ち方

習字のお手本を書く上で最も重要で大切な最初のステップ1は、「正しい筆の持ち方」である。 いきなりそんなこと?と思えるかもしれないが、基本が全ての土台を形成しているためここを飛ばして、さぁ練習しよう!とはならない。 正しい筆の持ち方でなくたって習字のお手本くらい書けるのではないかと思うかもしれないが、決してそんなことはない。
例えるなら、 箸を持ってご飯を食べる際にグーで箸を握りしめたままご飯を食べている姿を想像してみてほしい。大抵の場合、二本の箸が開かないため食べにくそうだなとか食べてる最中にご飯粒がポロポロこぼれることもあるかもしれない。正しい持ち方にはなぜその持ち方なのかの理由が必ず存在している。正しい箸の持ち方はご飯を食べやすいように工夫されている。鉛筆なら美しい文字を書くため。これらと同様のことが筆の正しい持ち方にも言えるのである。手をグーにして筆を握りしめていたら余計な力が入り線質はガチガチに固くなる。やわらかな伸びがある線質を書くことができず重たい線のお手本となる。一度、筆を握りしめることを覚えてしまうとなかなか自然で正しい筆の持ち方ができなくなる。自然な筆の持ち方とは基本形の鉛筆の持ち方(単鉤法)となる。手の平に小さなボールが入るくらいの空間を確保することが大切となる。美しいお手本を書く上で、正しい筆の持ち方は基本中の基本となる。
Step2.文字を知る

ステップ2は、「文字を知る」となる。 習字のお手本を書く上で文字を知るとはどのようなことなのだろうか。習字のお手本は、筆に墨をつけ紙面に何を書くのかといえばご存知の通り「文字」 を 書くことになる。文字とは、ひらがな、カタカナ、漢字のことを指している。だとしたら、これらの文字に対する成り立ちや由来、文字の意味を知っている必要があると考えている。文字を書くのだから文字に対する理解は必要不可欠ではないだろうか。
例えば、 ひらがなの「な」。 どちらが文字として正しいひらがなの「な」となるか。答えは、①左側となる。①も②も同じ「な」であるのに、なぜ②ではいけないのか。これにはひらがなの語源が関係している。ひらがなは本来漢字が元となっている。この元になる漢字が草体にくずれ今のひらがなが形成された。「な」の語源は「奈」の 漢字となっている。 注目するのは右斜め上の点の位置。これは漢字で言えば三角目の右払いに値する。そのため、一画目の横線よりも高い位置に点があることは元の漢字から見てもおかしいことがわかる。

そのため②のような点の位置では「な」とは言えないのである。これらのようなことが全てのひらがなに存在している。文字についての理解をされているかどうかはひらがなを見ればわかると言っても過言ではない。習字のお手本を書く際には、必ず文字を書道辞典で確認するようにしている。文字を扱うものとして、文字への理解が必要であるためと考えている。
Step3.基本の点と線の書き方

ステップ3は、「基本の点と線の書き方」である。 ようやくここにきて、まともにお手本を書かせてくれるのか?と思いきや、まだ文字を書くまでには至らず基本の点と線の書き方を学ぶことが先となる。 なぜなら、文字の構成は点と線の組み合わせによって成り立っているからである。点とは、点、濁点、れっか・れんが(灬)などのこと。線とは、たて線、よこ線、左払い、右払いなど。点以外のものを指している。
例えば、「永」 という漢字を分解すると、どのような点と線で構成されているのだろうか。点、よこ線、たて線、はね、 左払い、右払いなどによって構成されている。これらの点と線の組み合わせにより「永」という漢字が成り立っている。全ての文字は点と線からできているため、基本の点と線が書けるようになることが必要となる。
Step4.筆遣いの習得(起筆、送筆、収筆)

ステップ4は、「筆使いの習得(起筆、送筆、収筆)」である。 習字のお手本が書けるようになるためには、筆を扱うことができるようにならなければならない。筆は本来多面として作られておりどの面を使用しても書くことができる唯一の筆記用具とされている。筆は根元が円で固定されているが、1本1本の毛質はそれぞれが複雑に絡みねじれるようになっており、扱い方によって動きや方向性も連動しないようにできている。筆の毛は動物の毛からできている。この動物の毛にはハリ、コシ、バネが既に備わっておりこれらの毛質を十分に活かして書くことができてはじめて筆が扱える者とされている。筆を持って文字を書けさえすればいいのであれば大方全員が容易にできるだろう。しかし、バネを使用した筆遣いができる者となると一気に数が激減する。バネを使用した線が書けるようになると明らかに線質は変わる。バネが使用されているのかどうかをどこで判断するのかといえば、書道作品を見て十分に判断することができる。それらは線質に如実に現れるため見ればわかる。バネが使えるようになると無駄な力を入れて筆を扱うことがなくなるため筆は常に円を保つ。そのため、筆が扁平になりある一面でしか書けなくなってしまうことや故障させてダメにしてしまうこともない。
基本の一本の線の中には、起筆、送筆、収筆が含まれている。筆の持ち方、技法有無、バネ、速度、筆圧、角度、開閉などによってたとえ同じ筆を使用していてもたった一本の線はこんなにも異なる。昨今の習字では、文字が太ければ見栄えするのでそれだけで世間一般で言われる上手な作品と見られがちだが、本来、真に筆が扱える者の作品と見比べてしまうと技量は雲泥の差となる。極太でベタ塗りの線なら誰でも引けるようになる。それでは、平筆で絵の具を塗っている作業と何ら変わらないではないか。習字のお手本が書けるようになるためにはまずは一本の線が引けるようにならなければいけない。千里の道も一歩から。まずは、一本の線からスタートとなる。
Step5.枚数を重ねる

ステップ5は、「枚数を重ねる」である。 ついにこれまでのステップを踏んでようやく文字を書くことが許され枚数を書き込める段階まできた。道のりは長く感じたが、ここまでくればあとはこれまでのことを念頭に枚数を重ねることで習字のお手本が書けるようになっているはずである。
多くの人が習字のお手本を書く上で闇雲に練習だけを重ねてしまいがちだが、それはナンセンスである。野球で言えば、単にバットを振ればいいということではなく、バットを持っての構え方、身体の使い方、重心の移動の仕方、タイミングなど正しいフォームや改善を重ねることでより精度は高まっていく。練習とは、その上でするからこそ身になるのであって頭を使わずただやっている状態は単なる作業にしかならない。早いもので、習字のお手本を書き12年の年月が経過しようとしているがいまだに書道辞典で文字を引いている。その都度確認作業をすることは自身の学びにもつながっている。
習字のお手本の書き方5ステップを紹介してみた。1「正しい筆の持ち方」2「文字を知る」3「基本の点と線の書き方」4「筆遣いの習得(起筆、送筆、収筆)」5「枚数を重ねる」これらのステップを踏むことで、あなたも習字のお手本が書けるようになる。習字のお手本は、ただ文字をそれなりに書けばいいということではなく、改善と勉強を常にすることでより向上していくものとなる。是非チャレンジしてみよう。