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【密着‼】書道教室の先生の一日

【密着‼】書道教室の先生の一日

(お稽古がある日・ない日の先生の日常とは。)

書家

書家
片岡 青霞
プロフィール


 子どもの生徒さんからこんな質問をいただいた。「先生って毎日何してるの?」子どもが考える素朴な疑問。もしかしたら大人の生徒さんの中にも同じような疑問を抱いている人がいるのかもしれない。書道お稽古時の先生の様子は勿論把握しているけれど、自分たちが学校や職場で働いている間、書道教室の先生は一体どのような日常生活を送っているのだろうか。書道教室の先生の日常に関してはこれまであまり知られることがなく謎のベールに包まれてきた部分が多いのかもしれない。そんな書道教室の先生の一日に迫ってみよう。

書道教室がある日のお稽古スケジュール

普段の書道教室お稽古風景。児童クラス。書いた作品へのアドバイスや添削をしている様子。

 はじめに、今回紹介する書道教室の先生の一日とは、あくまでも自身の日常を参考としているため一般的な書道教室の先生が送る一日とはかなり異なる点があることをご理解いただきたい。そこには私自身の「働き方」が大きく関係しているためとなる。世の中にはたくさんの書道教室が存在するが、たとえ同じ書道教室であったとしても私のような日常生活を送っている人は極めて稀となる。

 書道教室は木〜土曜日までの週3日(子ども月3回、大人2回)。一ヶ月あたりの労働時間48時間、勤務月9日間となっている。まず、この時点でさまざな疑問が生じてくるかと思う。株式会社労務行政がおこなった2023年の調査では、日本人1日あたりの労働時間の平均は7時間48分。一ヶ月あたり159時間1分。月20日間となっている。

当教室のお稽古スケジュール。

 話を合わせるために「労働」という表記を用いたが、自身には「労働」をしているという感覚がない。これはいい加減に適当に仕事をしているということではなく、好きなことをしているということと、その大半は学びにあてられているため「労働」という概念がないということである。月の稼働9日間ということは、残りの月21日間は休日となっている。勿論連続して月にこの休みとはならないが、カレンダーの日にちによっては、17日間連続休日になることがある。ちょっとした大人の夏休みとも言えるだろうか。これらのことから、子どもたちが「先生って毎日何してるの?」と疑問に思うことは極自然なことと言える。

 書道教室を運営している先生方からすれば働き方の形態は真逆であり、そのような日常や働き方はありありえないと思われるかもしれないが、自身は開塾してからの12年間ずっと同じ形態を継続している。自分の中にある人生における優先順位が明確なため、今後も新たに日数や時間を増やそうとは考えていない。

教室がある日にしていること

今日も一日、生徒のみんなが気持ち良くお稽古ができるよう掃除は基本。

 書道教室の先生の教室がある日の一日は、掃除からはじまる。教室に通われている生徒さんが毎回のお稽古を気持ちよく受けられるよう教室を綺麗に掃除し、整理整頓をすることは欠かせない。荒れた環境では、落ち着くことができず心も乱れてしまうため空間を綺麗に保つことはとても大切なことだと考えている。生徒さんが使用する教室の掃除機かけからはじまり、テーブルセット、トイレ掃除、棚拭き、玄関履き。毎回同じルーティンを教室がある日の朝一番におこなう。

・教室の掃除・HP、掲示板、ブログ更新・資料作成(コピー)
・墨磨り・手本書き・連絡事項の確認
・出欠の確認・お稽古内容の準備・備品や在庫確認
・作品整理、発送業務・仕入れ・経理(事務作業)
書道教室がある日に先生がやっていること

 書道教室にてお稽古のある時間以外にも書道教室の先生は以外と細かなやるべきことがある。書道教室の先生の大半は、町中で小さな教室を構えている個人事業主が大半となっている。人を雇わず個人で活動されている方がほとんどのため、書道教室に関連する仕事は大抵先生が一人でおこなっていることが多い。どのようなことをしているかに関しては、主に教室のある合間の時間を利用して上記のようなことをしている。書道教室の先生は生徒さんが見えないところで、このような作業も一人でおこなっている。

教室がない日にしていること

2023年9月。はじめて登った日光白根山。初心者にとっては登るまで大変な山ではあったが、山頂からは素晴らしい景色を堪能。

 書道教室の先生の教室のない日の一日は休日となる。休日なので何時に起床してもいいし、起床せず布団の中でスマホ片手にゴロゴロすることもできる。一日中ソファーに寝っ転がりながら煎餅を頬張りNetflixを永遠に見続けていても誰からも怒られることはない。しかし、そんな生活を続けていたら健康を害し生活リズムも乱れ、何より人としてダメになってしまうことは容易に想像できるのではないだろうか。特に自身の場合は、連休が続くこともあるためダラダラした日常を送ることがないように心掛けている。休日であっても時間に対する意識は高いため、ダラダラした生活になることはない。休日も起床時間は決まっている。朝起きて今日一日何をしようかなと考えることは一切無く、やることとやるべきことを自ら事前に用意し淡々と取り組む時間を過ごすことが多い。

・臨書・学習・筋トレ、ストレッチ
・作品書き・読書・娯楽(音楽、散歩、登山、旅行)
・展覧会鑑賞・Youtube、Netflix・庭の手入れ
書道教室がない日に先生がやっていること

 書道における学びとしては臨書や作品書き。特に作品書きは休日で誰も訪問が無い日に取り組むようにしている。その理由は集中したいためである。教室がある合間の時間に作品書きをすることも可能だが、訪問があるとどうしても気掛かりになってしまうため、何もない日を選んで作品書きをしている。日常生活のほとんどの時間は学びに費やしている。テレビはほとんど見ない。与えられた受動態ではなく、自分の感性と感覚を大切に能動的であること。わからないことは自ら徹底して調べる。書道専門外のことに関しても十分な時間を割くようにしている。

 人間の一生はとても短い。趣味や娯楽を楽しむ時間は大変貴重なものであると考えている。年齢なのか、自然と共に静かに過ごす時間はこの上ない心地よさを私に与えてくれている。青空を見上げながら雲の流れを見て楽しむ。この何とも言えない心からの安らぎこそが自身にとっては最高に贅沢な時間となっている。

先輩の書道教室先生方が後悔していたこと

働くということは、まずは自身が健康であること。身体だけではなく心の健康ももちあわせていることが大切。

 書道教室を開塾するにあたり、先に書道教室を開塾した先輩方の教室をいくつか見学させていただいた。どの教室も賑わっていて周囲からみれば順風満帆。特に何も問題があるようには思えなかったが先輩先生方は心身共に疲れている様子だった。共通して口にしていたことは、「疲れた。休みが無い。」という言葉であった。

 先輩方の教室の休みは週1のみ。曜日によっては1クラスしかない日もあるが、全て教室のお稽古としてクラスが設けられていた。生徒さんがたくさんいることを考えれば生活への不自由は感じられないように思えるが、その代償として自分の時間を切り売りし、自分の人生や働き方にさえ疑問を感じているように見えた。「もう何年も泊まりがけの旅行には行っていないの。」書道教室を運営する60代女性の先生の言葉であった。たしかに先生は、傍から見ればもう十分なお金を手にしていたし安泰だった。しかし、お金よりも大切な人生のための時間を先生はもち合わせていなかった。実は、このような書道教室の先生方は結構多い。会社なら自分が休んでも代わりが利くかもしれないが、個人事業主はそうはいかない。先生が休んだら全てが回らない。見えないリスクとプレッシャーが常についてくる。教室をはじめた当初は良かれと思っていたことも年齢を重ね体力の衰えを感じると共に考え方が変わることは自然なことと考えられる。

 先輩先生方は悩みを抱えていた。手元にお金は十分あるかもしれないが、それを使うための時間が無かった。気づけば、自分の理想とする本来のあるべき姿とは遠く離れたところにいたのかもしれない。人間は必ず死を遂げる前に何かしらの後悔を抱えながらあの世へいくことになる。日本人No.1「働きすぎなければ良かった。」この教訓は、私に大きな影響を与えている。仮に手にしたとしても自分の理想と大きくかけ離れてしまっていては、心から幸せを感じることはできない。「時間」と「お金」を天秤にかけた時、最終的に人が取るものが「お金」ではなく「時間」であるということを先に学ぶ必要がある。どんなお金持ちであっても死を前にした際に、“もっと稼いでおけば良かった。”と口にする者はいない。共通することは、“もっと時間があれば…。”と口にしていることである。

 私たちは働くために生まれてきたのか。私たちは幸せになるために生まれてきたのではないだろうか。あなたも一度はこのようなフレーズを聞いたことがあるかと思う。そんなことは言われなくてもわかっている。でも、だって…。そんな心の声が聞こえてくる。大分イレギュラーな私は少なからずもう少し働いたほうがいいのかもしれない。

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