
書道筆は白毛と茶毛どちらがオススメなのか
(初心者のためのはじめての筆の選び方。)

書家
片岡 青霞
プロフィール
書道を習い始めようとしたらまず最初に用具を揃えることからはじまる。 いざ、書道用品店を訪ねると実に様々な種類の筆が陳列されている。ワクワクした気持ちでお店を訪ねてみたはいいものの、一体どの筆を選べばいいのか既に戸惑いを隠せないことも多いだろう。筆には大きく分けて白毛と茶毛の2種類がある。今回は初心者の方へ最も基本的な白毛と茶毛のどちらがいいのかについて紹介してみようと思う。
様々な線質を出すことができるのはやっぱり〇〇!

書道初心者の方へ筆をすすめるなら白毛と茶毛どちらがいいのか。 私なら迷わず「白毛」と答える。書道において最も大切な書線。良い線質を出してくれるのは、茶毛よりも白毛が圧倒的だと言えるからである。
ネットで「書道筆 初心者 白毛 茶毛」などのワードで検索すると、大抵の場合、初心者には茶毛がおすすめです!と出てくるだろう。この時点で、大半が示す答えと相反している。多くの人が示す答えとは異なり初めから期待を裏切り大変申し訳ないが、それでも白毛 一択と答えたい。ネットの大半の答えは明らかに茶毛なのに、なぜ白毛をおすすめするのかという疑問も沸いてくることだろう。
はじめが肝心。とはよく言ったもの。何事も学ぶ上で最初の段階はとても重要度が高いということを指し示している。書道で例えるなら用具の選定がその一つに入る。最初に手にする用具が自分の中での当たり前の基準となることがほとんどのため、 最初に何を手にするかということは最も大切なことであると考えている。まだ知識がさほどない初心者にとってネットの情報はとてもありがたいことであるかと思う。それと同時に、ネットに記載されている内容が確かなものであるか、信憑性はどうかということは全くの別問題であるということも覚えておかなくてはいけない。ここには見極めが必要であると感じている。ネットにはオーソドックスな内容が記載されているが、なぜか書道の達人や偉人たちが口にしていたような内容に関しては拝見することができないのである。
文房四宝(筆・墨・紙・硯)の中でも、 筆は自分の腕と直結しているものとなる。 手の感覚というのは案外早い段階で培われることとなるため、一度身についた間違ったクセを正しく直すことがどれだけ大変なことか皆さんも一度は経験があるのではないか。鉛筆の正しい持ち方はとてもいい例を示してくれる。大人になっても間違った鉛筆の持ち方をしている人は少なくない。 それくらい一度手が覚えた感覚を戻すには時間がかかるということである。初心者だから茶毛がおすすめです。とするのか、初心者だからこそ白毛がおすすめですとするのか。初心者にも「白毛」をおすすめするには他にも様々な理由がある。
白毛と茶毛の違い

白毛 | 茶毛 | |
---|---|---|
毛質 | 細かい、柔らかい | 太い、かため |
種類 | 山羊(羊毛) | 馬、イタチ、鹿、狸(獣毛) |
特徴 | 墨含みや毛のまとまりが良い。はじめはやわらかすぎて思うように筆運びができず苦戦するが、バネを使用することで多様な線質となる。 | コシ、ハリが強め。毛質が粗くややガサガサした線質となる。力みがちになるため筆を押さえつけて使用することがないよう注意が必要。 |
書体 | 楷書・行書・草書 | 楷書 |
価格 | 8,000円~ | 1,000円~ |
固形墨との相性 | 〇 | △ |
筆の毛色を分けると「白毛」「茶毛」の2種類となる。分かりやすく毛質、種類、特徴、書体、価格、固形墨との相性などを表記してみた。こうして比較してみると白毛と茶毛が全く異なる別物であるということがわかるだろう。
白毛の代表は、羊毛筆となる。毛質の段階でしなやかさや上質さが異なるため、茶毛との違いは実際に手で触れて確かめるととても分かりやすい。 大人の書道ではほとんどの教室で羊毛筆を使用してお稽古をしているかと思う。書道は線活動。線がものをいい、線で見せる。書道を学ぶということは線を学ぶということにつながっている。この線には、良い線とそうでない線が存在する。良い線を出す勉強をするのであれば柔軟な筆を手にすることは必要不可欠なこととなる。どんなに練習を積み重ねても筆の選定を間違えていたら良い線質を出すことには限界があるだろう。線質の点において、茶毛よりも白毛のほうが秀でていることは書かれた線で確認することができる。茶毛はかための線質のみとなるが、白毛は品やかな線に加えて強いハリのある線など筆の扱い方一つによって多種多様な線質を出すことができるものとなる。かための茶毛ではなく柔らかな白毛をおすすめする理由がお分かりいただけるのではないだろうか。
初心者に茶毛をオススメしない理由
よく初心者には、茶毛がおすすめです! ということを耳にするのではないだろうか。先ほども述べたようにネットで検索すれば、初心者にとって最初の書道筆としては茶毛がオススメです。とほとんどのネットや書籍に記載されている。 初心者へ茶毛をおすすめしている理由は、まだ初心者で筆が上手に使えないのだから安定感があり安価なものを手にするといいですよ。というものが第一の理由だと思う。言っている意味はとてもよくわかるが、剛毛筆ではなくせめて兼毫筆からとしてほしいものである。
筆の毛色は「白毛」と「茶毛」の2種類であるが、この毛色を使用して作ることができる筆は「剛毛筆」「兼毫筆」「羊毛筆」の3種類となる。剛毛筆は茶毛のみ。兼毫筆は茶毛+白毛のミックス。羊毛筆は白毛のみとなっている。
ここで述べている茶毛とは、完全なる剛毛筆のことを指している。この剛毛筆一つとったとしても同じ動物の毛で作られた筆によってさらに分別することができる。剛毛筆に使用される動物の毛質はゴワゴワするため書線もかたくなる。たしかに安定感はあるかもしれないが、毛質がかたいため筆を握りしめ押し付けるような形にして書きクセがつきやすい。一度、筆を握りしめ力むようになってしまうとここから中々力を抜くということができなくなる。 本来筆には、動物の毛質自体に反発する力が既に備わっているため力任せに握りしめて使用するものではない。そのような使用をしていると筆は扁平となりすぐダメになってしまう。また、手入れを施しても茶毛の場合、墨が根元まで残っていないか、綺麗に洗えているのかを確認しにくい点もある。
筆を手にした時の感覚というのは手が無意識に覚えているものである。 多種多様な線が書けるようになるということは技術を要する。確かに羊毛筆は毛質が柔らかいため最初は全く自分の言うことを聞いてくれない。思うように筆が動かず苦戦することも多いが、この羊毛筆が使えるようになってはじめて筆が扱える人ということになる。 せめて兼毫筆から羊毛筆へのステップを踏んでみてほしい。
使用するほど馴染む白毛

初心者に「白毛」と「茶毛」のどちらの筆を使用すればいいかと聞かれたら、「白毛」と答える。白毛はとても不思議なもので新品で墨を一度もつけていない時から比べ、何度か使用を繰り返すと毛質が徐々に馴染んでくることがとてもよくわかる。 昔最高級とされた羊毛筆には、毛質が深緑の光沢を放つものがあった。 触った感触なども今の羊毛筆とは比べものにならず、キメの細かさとしなやかさが一際群を抜いていた。 現在では店頭で商品として陳列されていないため、このような羊毛筆を目にすることは残念ながらできない。昔は取れていた良質な毛が、現在は手に入らないためである。 あるとしたら、先人が購入し家で眠っているものを拝見することができるぐらいであろうか。
筆を手にするステップとしては、兼毫筆から羊毛筆への移行をおすすめしている。 完全白毛の羊毛筆がどんなにいいものとしても、やはり初心者にとっては最初の難易度は高い。最初は肝心であるにも関わらず、最初から思うように書けなさすぎて挫折することも少なくはないからである。 兼毫筆は茶毛+白毛のミックス型となるため安定感がある。兼毫筆を一年くらい使用してから羊毛筆へ切り替えていくことが価格や扱いの面においても初心者には一番無理のないステップではないかと思っている。羊毛筆に切り替えた時にまた新たな挑戦がはじまる。この何とも扱いにくそうな筆を攻略できるか。ゲーム感覚で挑戦してみてほしい。
最初は全く羊毛筆を扱いこなすことができなかった人でさえ、徐々に筆が使えるようになってくると今度は逆に兼毫筆を手に取ることがなくなる。兼毫筆は自宅で長い間眠りにつくこととなるのだ。結果、白毛の羊毛筆一択となる。自分が手にする筆によって、どのような書線が書けるようになるかということが決まる。たくさんの筆を実際に触って確かめてみよう。白毛で良質な線が書けるようになろう。