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書道作品を書くための草稿の描き方【5ステップ】

書道作品を書くための草稿の描き方【5ステップ】

(なぜ、草稿は重要なのか。)

書家

書家
片岡 青霞
プロフィール


 書道作品を書く際に欠かすことができない草稿。草稿(そうこう)とは、書道作品を書く前段階として行う作業の一つで、どのような作品を書くかを考える言わば下書きのことである。草稿はまだ内容が正式なものとしては決まってはいないものを総称して指す言葉となっている。書道作品を書いたことがある人なら一度はこの草稿を書いたことがあるのではないだろうか。中には、毎回の作品書きで草稿は作成せずいきなり紙面に書き出す作家もいるが、大抵は草稿を描きそれをもとに作品書きを進めていく。展覧会会場では書道作品は展示されているが草稿の展示はない。作家がどのようなイメージを先に頭に描き、いかにして一つの作品が世に生まれるかまでの草稿(工程や過程)は目にすることができない。これは、書道だけではなく、文芸、絵画、彫刻、音楽といったすべての芸術分野において共通していることとなる。今回は書道作品を書くうえでの草稿の描き方を5ステップで紹介しよう。

草稿の重要性について

 はじめに、草稿の5ステップを紹介する前に、なぜ書道作品を書くうえで草稿が大切なのか。草稿の重要性について考えてみたいと思う。

 草稿とは、作品を書く前段階として行う下書きのことであるということは先に述べた通りである。この作業は、芸術分野において人が生み出す限りその人の頭の中で思い描いているものをあらわにする作業のことであり、自分の頭の中で創造し描いているものを吐き出すことは棚卸し作業に似ている。「思考は現実化する」という言葉を聞いたことがあるかと思うが、これはまさにその言葉の通り、作家の多くはまだ書いてもいない作品の完成図がすでに自分の頭の中に出来上がっている。逆に言えば、作品の完成図が頭の中に出来上がっていなければ、一体何に向かって枚数を書き進め何をもって完成とすればいいのかがわからない。そのため、作家の頭の中には完成図がすでに出来上がった状態で存在していることになる。これを可視化する作業が草稿と言える。草稿はデッサン作業のようなものなので、丁寧に綺麗に描かなければいけないということは一切ない。この作業をすることで大切なことは、自分の頭の中にあるものを吐き出し可視化させることにある。このデッサン作業をしている最中に、さまざまなアイディア、発想、ひらめきが引き起こる。これらの発見や気づきが一つの作品を書くまでに作家に力を与え少しずつ作品が自分の思い描くものへと近づいていく。これらのことから、作品を生み出すうえでの草稿とは、切っても切り離すことができないとても大切なものだということが言える。

スッテプ1.素材(題材)を決める

書道展覧会場は素材の宝庫。展覧会は人の作品を見て学ぶだけではなく、次回作のための素材探しやヒントにも繋がっている。

 書道作品を書くうえで、一番最初にやることは素材(題材)を決めることである。素材とは、作品の核になる部分で「何を書くか」ということを決めるということである。書道における力量云々はさておき、素材選びの時点で、作品における良し悪しの半分は決まるといっても過言ではない。優れた作家はいい素材をもちあわせている。素材選びの一つを通して、作品を書くということはどういうことなのかを把握しているか否か、これらを判断できると言っても決して大袈裟ではない。そのくらい素材選びは重要なものであり、時間を割いて選出するべきものであると考えている。ここで難しいことは、いい素材が必ずしもいい作品に繋がるかどうかということは全くの別問題ということにある。料理に例えるなら、料理が得意な人と不得意な人に全く同じ材料を与えた結果、テーブルにどのような料理が並ぶか想像してみてほしい。見ためや味に差が生じることは致し方ないということは誰もが納得できるかと思う。書道においても同様で、同じ素材を与えてもその素材をどのようにして扱うか。自分のものにできるかどうか。素材が生きるか死ぬかは最終的には作家の腕にかかっている。

ステップ2.用具の準備をする

草稿を書くために必要な用具。(書道字典、裏紙、鉛筆、消しゴム、ボールペン(黒赤色)、サインペン(黒赤色)など。)

 素材を決めた後は、草稿を描くための用具を準備する。草稿を描くために必要な用具として、書道字典、ノート(裏紙)、鉛筆、消しゴム、ボールペン(黒赤色)、サインペン(黒赤色)、筆ペン、書道作品集などがある。

 草稿はあくまでも下書きなので、先にも述べたとおり綺麗に描く必要はない。そのため、自身は裏紙を使用することが多い。書いて気に入らなければすぐに捨てられることや、新たに書き直すことを考えると裏紙を使用することが一番理にかなっていると思うからである。また、草稿を「書く」と表記せず、「描く」としているのは、草稿は鉛筆をもとにデッサン作業をする工程に近いものと考えているためにある。草稿を描く際に筆記用具に関する質問をいただくことが多いが、特に決まりはない。何度も同じ箇所を重ね肉付けをしイメージを膨らませていくには、最初の下書きとして鉛筆が最適であろうか。その後で、サインペンや筆ペンなどでカラーを入れ肉付けをする。実際に作品書きをする時には、草稿を床に置いて書く場合がほとんどである。鉛筆で書かれた草稿を床に置くと、距離が遠く老眼で見えない人もいるだろう。そのため草稿はなるべく大きくはっきりと描いたものを用意する必要がある。

ステップ3.文字調べ

左・角川書道字典。中央・二玄社新書源。右・二玄社大書源

 草稿を描くための用具を準備したら、早速文字調べをしていく。文字調べをする際には書道字典を活用する。書道字典には、各社出版しているものでさまざまな特徴があるため、一冊の書道字典だけで文字調べをするのではなく複数の書道字典を用いることをオススメしている。文字によっては十分に記載されていないものも多くあるかと思う。他の書道字典を活用することでより幅広く文字調べをすることができることから複数の書道辞典を活用する必要がある。

二玄社大書源。書道字典の中で最も多く文字調べが豊富にできる字典。上・中・下の三冊セット。価格52,800円(税込)

 文字調べをする際に、書道字典に掲載されている文字を全て転記する必要はない。ここでは、いくつか気になった文字をランダムに拾い集めていく。この時にやることは、書道字典に記載されている文字をなるべくそのまま書き記していくことである。文字に表情をつけたり、動かしたり、展開させたりすることはしない。ここでは単純作業として材料をあるがまま収集する作業をしていく。

ステップ4.草稿を作成する

一字書「是」の草稿。同じようなものばかりが列挙しているように見えるかと思うが、自身の中ではそれぞれ微妙に異なる。見せ場や軸となる部分を探りながら、ただひたすらランダムに描いていく。

 文字調べを終えた後、ここからようやく草稿を描いていく。草稿は、実際に書く書作品の縮小版を作成していくため、紙のサイズにフチ(枠)を囲みその中に先程調べた文字をもとにペンを動かしデッサン作業をすすめていく。この時に大切なことは、手を動かして何枚も草稿をただひたすら描いていくこと。これは自身のやり方となるが、書いて気に入らないなければ、バツ印をして次の草稿を描いていく。
 これに加えて、筆の古法(筆遣い)を確認する。枠からはみ出たした線や…の表記、矢印(→)がそれに相当する。この作品は、引く線からはじまり後半へかけて突く線へ。序盤はゆっくり中盤から運筆速度をアップ。あて、突き、線の折(セツ)に加え、緩急を意識した作品展開を検討。

栃木県芸術祭出品作品「是」 90×120サイズ

 草稿作成には、柔軟でやわらかな発想力が大切。長い線は短い線へ。直線は曲線へ。角度を逆方向へ。最初の入筆をどこからスタートするか一つとっても作品展開の仕方は大きく変化する。発想の転換の仕方は、これまで描いてきた草稿と180度真逆のことをしてみると新たな気づきや発見が生まれるかもしれない。このようにして、バリエーションを増やすことで作風が次第に変化していく。作品には最後に押印をする。草稿の時点で赤枠をいれることでよりイメージを膨らませていく。

ステップ5.実際に作品を書き修正を施す

草稿が完成したら実際の作品サイズに書いてみる。「作品⇌草稿」この作業を何度も繰り返し一作をつくる。

 最後に、出来上がった草稿をもとに実際に作品書きをしていく。草稿は一度書いたら終わりではなく、草稿を描き実際に作品を書いてみて気になる点を見つけさらに草稿への修正を加えていく。草稿はあくまでも下書きなので、ミニサイズをしっかり作成しどんなに頭の中でイメージが完璧であったとしても、実際紙面に書いてみるとなぜか作風が創造していたものと全く異なることはよくある話である。このような時は、再度草稿と向き合い何度も修正を施す。

 また、用具の選定が合っていないこともあるため、紙のサイズ、使用する筆、濃墨・淡墨などの組み合わせが選んだ素材に最適であるのかを検討していく必要がある。書作家にとって用具はアイテム(武器)のようなものである。ゲームで例えるなら、ラスボスを倒すのにミニカッターでは戦いに苦戦しそうなことは想像できる。適した用具を選定するにしても、選定できるだけの用具をもちあわせていなかったらまず選ぶことはできない。なぜ書道が総合芸術と言わているのか、少しばかり見えてくるものがあるだろうか。

 一つの書作品を世に生み出すまでに、はじめのうちは草稿があることでものすごく時間がかかることもあるかもしれない。しかし、草稿という大切な作業があることで、生み出される一つの作品が少しずつ改善され次第に高まっていくということは事実である。5ステップをもとに、是非草稿を極めてみよう。

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