【ジワジワ価格高騰中】
書道で使用する文房四宝の実態(筆・墨・紙・硯)
(物価高が書道業界へ与える影響。)
書家
片岡 青霞
プロフィール
ここ最近、ニュースでも度々目にすることが増えた物価高。私たちの一番身近なところで言うと日々の暮らしに欠かせない衣食住。その中でも食品に関する値上げは日々更新されている。食に関しては全ての人に関わる毎日欠かすことができない必要なことなのでより身近に感じることであると思うが、書道を学ぶ者にとって大切な書道用品でさえもジワジワと価格高騰し続けている実態がある。高騰への方法と対策に触れながら、今後の書道用品の価格動向はどのように変化していくのかについて迫る。
書道用品が高騰している理由
書道を学ぶものにとって必要な文房四宝(筆・墨・紙・硯)の価格が高騰している。文房四宝だけに関わらず、下敷きや文鎮、墨磨機など書道に関する全ての書道用品が値上がりしている。書道用品が価格高騰している理由はひとつだけではない。戦争、輸入レート、中国の人件費高騰、原材料不足、動物愛護問題、書道人口減少、職人離れ、後継者不在など。様々な問題によって書道用品は全体的に価格が高騰し続けている。価格が高騰することによって引き起こされる問題は多岐にわたり、これまで書道を学んできたが金銭的な余裕がなくなり、書道そのものへの学びをやめ離れていく人口は増加傾向を辿っている。書道を学ぶ者の人口が少なくなるということは、物を販売する書道用品店も以前のような価格帯では維持することができなくなる。これによって致し方なく値上げをせざるを得ない状況が生まれている。今現在、老舗の書道店は店舗維持のための岐路に立たされていると言っても過言ではない。これらの価格高騰が与える書道に携わる者達への打撃はとても大きなものになっている。
書道を学んでいるものにとって文房四宝(筆・墨・紙・硯)とは、無くてはならないとても大切なものである。書道用品店は、用具の販売による利益が最も多いように感じるかもしれないが、作品表装の利益が一番大きい店舗がほとんどとなる。書道展覧会のために作品表装をして展示をするが、 2020年から世界同時に施されたプランデミックによって書道展覧会が軒並み中止に追いやられた。これによって、書道用品店にとって一番大きな利益となるものが阻害され事業継続が難しくなった店舗は非常に多かった。また、 あれから4年目を迎えた今になってこれまで何とかこの状況を乗り越えてきたが、やはり事業継続が難しくなり店舗をたたむと言う判断に至った大きな書道店もあるくらいだ。
これまで手軽に始められるとされてきた昔ながらの書道のイメージからは、少しずつ様子が変わってきた。現在の書道全体を見てもそのように感じている。
古きものの品質の良さ
“良い商品を提供したい。”プロの職人が自分で手掛けるモノへの愛着やこだわり、情熱は一際強いものを感じることができる。以前、 奈良県にある老舗「古梅園」を訪問した。 創業1577年。誰もが知る墨の老舗である。 こちらのお店では、プロの職人が固形墨を一つ一つ丁寧につくっている。実際に固形墨をつくっている様子や用具、工程に至るまでの一連を見学させていただいたことは今でも大変貴重な経験となっている。実際にこのようにして作っていると言うことを聞く話と、現場を自分の目で見るということの違いはとても大きな差を感じる。その場のリアルでしか感じることができない、温度、匂い、触感、プロの職人による息遣いなど。五感をフルに働かせて感じることができるものには、やはり格別のものがあった。
書道の普及を考えれば機械による大量生産することを念頭に置くことだろう。大量生産できることにより人件費を削減し安価なものをより多くの人へ提供することができる。しかし、品質へのこだわりをもっているプロの職人からするとどうだろうか。 自分たちにしかできないことへの自信と誇りを掲げ、これまで磨かれてきた言葉では表すことができない感覚が体に染み込んでいる。より良い商品を昔と変わらずこれからも書道を学ぶ人たちのもとへ届けたいと願っているに違いない。
プロの墨職人はとてもハードな仕事である。単に黒い塊をひたすらこねていればいいなどというそんな甘い話ではない。どうしてもダイエットに成功したいのであれば最適な職場かもしれない。 夏の暑い日エアコンはなく、冬の寒い日は小型の暖房器具の側で身体全身をフルに使い手足真っ黒になりながらの墨作り。太っている暇もなければ太りようがない。安易な気持ちで門を叩くことがないように。古きものへの伝統を守り続けていくということは厳しく大変なことなのである。
書道を学ぶ者の対応策
書道用品には、 機械で安価に大量生産するものとプロ職人が一つずつ丁寧に作るものの2つがあるが、 書道業界にとってはどちらも必要不可欠なものとなっていくだろう。 同じ書道を学んでいる者であってもとにかく安ければ何でもいいと言う者もいれば、長く愛用できる良質なものを手にしていきたいと言う人も共に存在するからだ。私のような人間はもちろん後者を選択する。文房四宝に対する愛着も生まれず、ただ安いからという理由で値段に飛びつき無駄に数だけ増やすような用具の選定は今後もすることはないだろう。
とは言っても、書道用品の価格高騰は無視できない。では一体書道を学ぶ者は今後どのようにすればいいのか。これに関しては、 最低限度の必要な基本用具は揃えた上で一工夫することを考えていくことが必要である。書道教室と自宅の往復をしている者にとってはさほど痛みはないが、年間を通じて各展覧会に出品をしている人たちはそうはいかない。より作品を書く上での工夫をするべきである。
例えば、文房四宝の中で最も高騰している紙。特に輸入品による紅星牌の紙は、現在最も高いもので50枚70,000円の価格帯をはじき出している。これまでと同じように枚数を同じ紙で書いていたらほとんどの人が破産してしまう。なので、同じ紙だけで枚数を書いていくのではなく最初は紙質を抑えたもので取り組み後半で良質な紙を使用する。 淡墨から濃墨へ切り替え紙質をセーブする。定期的にネットオークションで文房四宝を検索し安価な値段で手にする。全国にある書道店での価格帯を調べ比較する。など対応策はまだある。また、自身が施していることにはなるが、これまでの漢字作品に加えて仮名作品も取り入れた作品発表をしていくという方法もある。仮名であれば少量の墨でよい。展覧会用の加工紙の値をもちろんそれなりにはするが、作品を書く上での工夫をこ凝らしていく上で対応することは十分できる。これまでと同じようにしてやることができるのはお金に何ら困っていない人たちだけとなる。どのようにすれば工夫することができるか方法と対策は他にもたくさんある。書仲間に聞いてみたり、自分の頭を使っても考えてみよう。
今後の書道用品の価格予想
一度高騰したものは中々価格が落ちづらい。一度上がった消費税は据え置き。消費税も今後上がることはあってもこれまでの動向を見れば元に戻る確率は非常に低い。次またいつ上がってしまうのかと多くの国民が懸念している。物の値段については、値上げしたことによって顧客が離れることが十分に考えられるため、どうしても慎重にならざるを得ない面がある。物価高には様々な要因が含まれており、値上げをしたくてしているのではないと本心で思っている業者も非常に多い。しかし、継続させるためには致し方ない面があるということを書道を学ぶ者は心にとどめておく必要がある。時代は私たちが思うよりも早いスピードで変化をし続けている。
今後の書道用品の価格帯は、当面の間維持されることになるだろう。やはりここでも値上げはあるが、値下げは難しいという判断となる。現在、価格が上がる前に仕入れた書道用品が少しだけ倉庫に眠っている。この在庫が、もう少し経つと市場に出てくるかとは思うが、ここを最後として価格は据え置きになるとみている。価格が高騰することで書道業界全体へ与えるダメージはとても大きいかと思うが、何もせずただ傍観しているのも時間の無駄である。年間を通じて書道展覧会に出品している者は、できることとやれること、方法と対策を施して共に乗り越えよう。解決策はまだある。