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書道団体や教室を移籍されたあなたへ

書道団体や教室を移籍されたあなたへ

(「0(ゼロ)」から学ぶ姿勢の大切さとは。)

書家

書家
片岡 青霞
プロフィール


 自分が書道をどのように学びたいかによって所属先が変わることがあるだろう。団体や教室を移籍する理由は人それぞれであるが、多くの場合「期待」と「不信感」から生まれるものとなる。せっかく新しい地でスタートを切るのだから今以上により良くなっていかなくてはいけない。移籍をされた方がより学びを深め向上するためにはどのような心構えと姿勢が必要なのだろうか。「0(ゼロ)」から学ぶ姿勢がなぜ大切なのかという点も交えて考察してみようと思う。

書道団体や教室を移籍することとは

全国にはたくさんの書道を学べる団体や教室がある。書道を学ぶ者に好きに選択する自由が与えられている。

 幼い頃、近所の書道教室に通っていた。近所と言っても徒歩圏内ではなく、車でしか通うことができない場所にあった。子どもの頃というのは、自分がどこの書道団体に所属しているのかということには全く興味関心が無く、大人になってから県内にある有名な団体に所属していたということを知った。 先生がどのような作品を書いていたのかさえさほど把握していなかったが、大人でこれから新たに書道を学ぼうとする者は先生がどのような作品を書いているのか。指導方針や理念に共感を得られるのかどうか。など総じて自分で決める必要がある。自分自身がその環境の場で学びを得ていくのだから納得できなければ始まらない。

 移籍に対するイメージはあまり良くないかもしれないが、決して悪いこととは思わない。年数を重ねれば人の考えや環境、状況が変わることは自然の摂理だと考えている。一番大切なことは、自分が納得できるかどうか。ただこれだけである。

 私は小学4年生から書道を習いはじめもうすぐ30年となるが、所属団体を三度移籍した。一つ目は、子どもの頃所属していた県内の団体。所属していたということもおかしいかもしれないが一応所属していたという部類の一つに含めておくこととする。二つ目は、東京で1人暮らしをしていた頃に所属していた団体。18歳から上京し書道に明け暮れる日々を過ごした。三つ目は、書道教室を立ち上げると同時に学びの場を県内へ移すことなり現在に至る。
 子どもの頃の所属団体はどのようなところなのかに関しては、知り得ぬまま書道教室へ通っていた。大抵の場合子どもの頃は皆同じだと思う。大人になってからは勿論自分の自由意思のもとで決めている。自分のお子さんを預けるにしてもどのような教育を提供しているのかは把握すべき点となるだろう。私の場合、これまでに身を置く住まい環境が異なっている点も大きいが、二つ目の東京の団体を離れた一番の理由は、金銭がいくらあっても足りないことがあげられる。人によって金銭感覚は異なるものだが、働いて得た金銭をすべて書道につぎ込んでも不足するくらい金銭を要した。このような形で書道を続けていてはいつか自分がもたなくなると感じ離れることとした。 一体どのぐらい金銭を投じてきたかは怖くて電卓を叩けないが、小さな家をもう一棟建築することが余裕でできるくらいとしておこう。

「1(イチ)」から学びたいという姿勢が示すもの

 書道団体や教室を移籍をするということは、全く新しい環境の元でスタートを切るということを意味する。これから新たな気持ちではじめることができるのだからとても晴れやかな思いでいることは間違いないだろう。
 
 大抵の場合、「1(イチ)」から学びます!という姿勢を示すこととなるが、多くの場合最初の姿勢の部分でつまずくこととなりおかしな方向へ行くことが多いように感じている。 書道をやっていた。ある程度経験がある。 ということは素晴らしいことではあるが、物事は表裏一体。この経験が邪魔をし足かせとなり何も吸収できず成長できずに終わる人の数は異常に多いものである。「1(イチ)」から学びます。というこの言葉の中には、すでに「1(イチ)」がある。この「1(イチ)」とは、何を指しているのか。これまでのやってきた年数、積んだ経験、実績を含んでいる。この中には、これまで自分がやってきたことへの誇りや自信、学びに対し自分に身についた考え等が含まれている。 勘がいい人ならこの時点で私が何を述べようとしているのか既にわかるだろう。すでに「1(イチ)」がある。それもとても中途半端な状態で。「1(イチ)」あるのだからまっさらな状態でのスタートには決してならないだろう。自分の中で絶対に曲げられない考えや思いが浸透し邪魔をすることとなり、この「1(イチ)」が自分の学びと成長を妨げることになるとは本人さえも気づくことなく進むことになるのである。

  この状態で書道団体や教室を移籍したとしても、本当の意味で確かな成長は無いだろう。 これまで積み上げてきたすべてのものを捨てることはできるか。この問いにYESの者は、決して「1(イチ)」から学びます。とは口にしない。やるなら「0(ゼロ)」からである。「0(ゼロ)」からの姿勢を示す者だけに移籍をしても成長という機会が与えられるのである。

昔、このようにして教わった

新たな学びを取得するために、自分に不要なものは置いていく。photo by PAKUTASO

 すでに「1(イチ)」積み上げた状態のまま書道団体や教室を移籍しても、何も学びを吸収することなく終わってしまう。これはあった出来事をなしにしようということではなく、新たな先生を求めて、新たに教えを乞うのだからまっさらな状態で臨む必要があるということを指している。

 私たち人間の顔が全て異なるように、百人いれば百通りの顔がある。人物が違うということは、同じ書道を学ぶにあたっても“言論”は当たり前のように異なるが、これさえも把握していないまま門を叩いてしまう人もいるのだからただただ驚きを隠せない。

 「昔の先生に、このようにして教わった。」

 どこかで一度はこのような言葉を聞いたことがあるかもしれない。移籍してきた人がよく口にする言葉の一つとも言えよう。ここで疑問が沸いてくる。昔の先生って…誰?? と。これまでその方がどのようにして書道を学んできたのかを申し訳ないが私は存じていない。また、昔の先生が一体誰なのか定かではないが、私には昔の先生がどのような人物なのかわからない。 あなたがどのように教えを受けてきたのかを見ていない。勿論、昔の先生も私の事を知らない。自分がこれまでに培ってきたことへの誇りと自信の表れであるとは思うが、新しい先生のもとで既に書道の学びをスタートしているのに、昔の先生があーだった。こーだった。の教えから抜けられないようでは、新しい環境場へ一体何を求めに来ているのか。何をしに来ているのかということを問われても致し方がないことになってしまう。あえて述べる必要はないかもしれないが、この姿勢と心構えのまま書道を継続したとして果たして成長はあるのだろうか。書道の前に礼節を学ぶことのほうが先ではないだろうか。単に時間とお金を消耗しているだけで、何も身になっていないようでは勿体ない。それだけ昔の先生を求めているのならあなたの言う昔の先生のもとへ行くべきであると考えるがいかがだろうか。門を叩く先を間違えてはいけない。

「0(ゼロ)」精神が生み出すもの

誰もが知っている清水の舞台から飛び降りる。ということわざ。死んだつもりで思い切ったことをする。重大な決意を固める。の意味を示す。
photo by free sozai .com

 大抵の者は捨てられないだろう。これまで積み上げてきた実績、受賞歴、過去の栄光。既に「1(イチ)」積んでいるのだから、今更リセットしてまた新たに積んでいくのはあまりにも大変すぎる。 それだったら今のままでいいだろ。これは普通の感覚なので何ら不思議なことは無い。一生の間においてもそう多くはない書道団体や教室を移籍するのだから、せっかくなら以前よりもより良くなっていきたい気持ちがあるのではないだろうか。そのためには、「1(イチ)」からではなく、「0(ゼロ)」から物事に取り組む姿勢と心構えが必要になると考えている。言い換えれば、「0(ゼロ)」精神がないのであれば、新たに門を叩くべきではない。精神が整った状態でスタートを切らない限り、成長が無いまま退く道を辿ることとなる。

 地元で書道教室を立ち上げた時、私に三つ目の移籍がやってきた。
東京でやっていた頃もとても勉強になった。大変だったがとても楽しかった。未だに当時の書道仲間との交流もある。それでもこれまで積んできたものを全て捨て私は移籍をした。その根底にあるものは、“今よりも、もっと良くなりたい。” という内から湧き上がる思いが自分のことを動かした。

 以前より、成長がないなら私の負け。芸術の世界なので勝ち負けではないかもしれないが、プロの世界では負けだと思っている。 「ヨソ(移籍)から来た者に、伸びしろ無し。」亡き師匠にその他大勢の一員と同じように思われるのが嫌で歯を食いしばってくらいついた。果たして、自分に成長があったかどうかを自らが述べること程おかしな話は無い。それを表してくれるのは私の作品たちだと考えている。作品の評価は大衆が決める。自分の作品が以前と比べて良くなっていないのであれば、それは私の完敗を意味している。人間的成長なくして作品の向上は断じて無いが、人物の全てが作品に集約し投影され隠しようがないものだからこそ作品と対面した時にいつも恥ずかしさを感じてしまうものなのかもしれない。「0(ゼロ)」精神が生み出すものははかりしれない。言うは易く行うは難し。そして皆、捨てられない。

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