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職人魂プロ根性!書道用具をつくる一流職人の条件

職人魂プロ根性!書道用具をつくる一流職人の条件

(全国で活躍する筆づくりの名人たちとは。)

書家

書家
片岡 青霞
プロフィール


 書道で愛用する文房四宝(筆、墨、硯、紙)。 私たちが一番最初に目にするのは店頭に並んでいるこれらの商品であるが、実際にこれらの用具を裏方で作ってくれている人が存在することを忘れてはいけない。丹精込めて丁寧に完成された用具であるからこそ、物を通じてその人の愛情が伝わり大切に使用したいと思えるものである。一流のプロ職人が手掛けているため大抵の場合ハズレを引くことはないが、長年書道に携わっていると中にはこれはどうなのか?と疑問を抱いた経験も少なからずあるものだ。プロ職人とは何か。今回は実際にあった経験談を踏まえて話を進めていこうと思う。

一流の職人は、これから先も一流でいられるのか

世界のトップアーティストからも注目されることとなった熊野の化粧筆。大切な方への贈り物としても喜ばれています。

 一流のプロ職人は、これからも変わらず一流で居続けることができるか。答えはNO。 現時点において一流のプロ職人であったとしても、 自己研鑽を怠る者は物づくりの職人や書き手の作家でさえ一流をキープし続けることはできない。日々の研鑽を怠る者は、年齢と共に退化し後からはじめた熱量ある者にあっけなく追いつかれ、気づけばいつのまにか追い抜かされていたということも十分にありえるということだ。そうならないためにどんなに年数を重ねていたとしても勉学のためにおける自己研鑽は欠かせないものだと言える。

 書道の筆生産として最も有名な広島県熊野町。この地は書道筆が昔から盛んな地域であるが、今では書道筆よりも女性がメイク道具で使用する化粧筆の方が名実ともに世に知れ渡っているのではないかと思う。高級な化粧筆は上等なものになるとお値段も破格となるが、一度手に触れてみると何とも言えない肌ざわりの心地よさを感じることができ忘れられない印象を与えてくれる。売店にも数々の化粧筆が陳列されているため、必ず自分のお気に入りの一本が見つかることであろう。化粧筆に負けず、書道愛好家としては是非書道筆にも頑張ってほしいと切に願っている。

 全国にはたくさんの筆職人がいるが、 広島県熊野町だけでも約1500人ほどの筆づくり職人がいるのだという。その中でも特に優れた技術と経験を持ち合わせ、名人と認められた伝統工芸士はたったの16名。ほんのひと握りしかなることができない称号を与えられた一流の筆づくりプロ職人が勢揃いしている。 書道愛好家であれば、一度は名人が手掛けた筆を手にして書いてみたいと思うことだろう。

すぐに壊れる筆シリーズ

金ぐしをかけ不要な毛を取り除く。一本の筆が出来上がるまでには、たくさんの工程と時間を要する。photo by photoAC

「あれ、 また筆壊れちゃった…。」

これで一体何本目なのだろうか。また羊毛の毛が軸から抜け落ちてしまったという。大人の生徒さんが使用する筆として、 新しく羊毛筆をオーダーメイドした。筆は、店頭に並んでいるものをそのまま購入するというだけではなく、オーダーメイドをすることも可能である。注文の仕方としては、毛質、毛量、長さ、軸、名入れなどをこと細かに指定する。1本試作として作っていただき実際に書き心地を確かめる。問題がないようであればまとめて注文をかけるが、この工程のやり取りにはとても時間がかかる。 長さ1~2mmの違いでも羊毛筆にとってはかなりの違いがあるため何度も職人さんとのやり取りを交わし一本を作成していくのである。試作品ばかりの筆がたまってしまうということもよくあることである。

 試作品として問題なかったのでまとめて注文をしたが、あれよあれよとこのシリーズの筆ばかりが壊れるといったことがあった。毛が抜けてしまった羊毛筆はお直しをして再使用することができるため、筆を作ってくれた一流のプロ職人にお直しの依頼をすることとなる。たまに壊れて修理の依頼をするのであればまだいいのだが、なぜかこのシリーズに限っては筆の毛が抜けることが頻発し、合計で15本ほどの筆修理をお願いしたくらいであった。私の注文方法が思わしくなかったのかもしれない。 もしくは、生徒の筆の洗い方に問題があったのかもしれない。と、考えることもあったがそれにしても壊れる頻度があまりにも多い。ここまで壊れると筆修理を請け負う職人さんもタジタジ。 送る私も毎回申し訳ない気持ちが入り混じり何とも言えない空気感でのやり取りがしばし続くこととなった。

原因と結果を求めて

「こちら側に問題があるのかもしれません。」

 何度も続く同じシリーズでの筆の破損に対する原因は、職人の自分にあるというものだった。 良筆な毛質と軸の根本部分による糊付けがあまいように感じたため、その旨をお伝えし改良を施していただいた。しかし結果は同じだった。物事には必ず原因と結果がある。毛が抜けるということは明らかに糊付けがしっかりされていないと考えられる原因があるのだが、結果は糊を変えても変わりませんでしたというあっけないものだった。

 どんなにいい毛質の筆でもここまでたくさん壊れていては、書道筆として愛用することはできない。いくら修理をすれば何度も使用できるものであったとしても、時間と手間暇を考慮すればこの筆は使用するに値するとは言えず、同時に自身の信用に関わるため人へオススメをすることもできない。一流のプロの職人であれば 原因が何なのかを探ることは当然の仕事である。また、依頼の時点で要望が難しいのであればできない旨を伝え断りをいれることはとても誠実な対応だと心得ている。結局、この羊毛筆は試行錯誤はあったものの思うような改善に至らず、一流のプロ職人から筆作成の中止要望を受け終了することとなった。

 どのメーカーへも書道筆の修理を依頼すると必ずその筆を修理した人の名前が明記され手元に返却される。私が手掛けましたという丹精込めてお直しをしてくれた職人魂とあたたかさを感じることができる。たくさんの素晴らしい筆職人の方々が全国で活躍しており今日も一生懸命腕を奮ってくれている。

プロ職人としての立ち振る舞い

一つひとつのモノづくりには職人さんの愛情と真心が込められている。

 一流の職人とはどのような人のことを言うのだろうか。 今、世間から一流だと言われているプロ職人であっても、日々の自己研鑽を怠っていては同じ位置にずっと居続けることは難しいのではないかと考える。ましてや称号を授与しているのであれば尚更だと思うが果たしてどうだろうか。 頻繁に壊れる筆を作り提供していることは果して一流の仕事術だと言えるだろうか。 自分にとってのできること、できないことを把握することは仕事をする前段階の話であり、自分のできないことに対する断りを入れることは理にかなっている。時間、お金、手間暇、人への信用を考えてもそうだと言えよう。 

 長いこと自分のオーダーに問題があり、今回はたまたまそうなってしまったと思っていたのだが、書道仲間との会話の中で一流のプロ職人に筆づくりを依頼し私と同じように何本も筆が壊れている人がいた。なんとなく嫌な予感がして、職人さんのお名前を伺ってみると何と同じ人であった。実際のやり取りを聞いてみると全く同じで何度か改良を施してはみたものの完全なる改善には今も至っていないのだという。この時点で自分のケースがたまたまではないことがわかったが、やはり自分に非があるということをおっしゃっていたのだという。もちろん、提供する者として非を認めることは大切なことではあるが、一流のプロ職人が毎回同じように他の方に対しても筆が壊れる度に“自分に問題がある。”というお決まり文言を並べてばかりではプロとは言えないのではないだろうか。職人としてのプロ根性や誇りやプライド、何としても改良するんだ !という熱い熱量を残念ながら感じることはできなかった。

 筆づくりのオーダー依頼をする時というのは、どのメーカーでも誰でも良いというものではない。 ここにお願いしたい、あなたにお願いしたいという思いが依頼者の誰にもあるはずである。これだけたくさんの筆が壊れても伝統工芸士という称号が与えられた名人だということに、ただただ驚きを隠せない。自分が数少ない中に選ばれているということを決して忘れないでほしい。 

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