大人のための書道作品のつくり方【5Step】
(書道作品を書くための手順とは)
書家
片岡 青霞
プロフィール
書道展覧会会場に展示されているたくさんの作品。あなたも一度は会場で書道作品の展示を見たことがあるのではないだろうか。書道作品と一言でいっても子どもと大人とでは大きく異なる点がある。子ども(幼年〜高校生)の県内書道展では一般的に学年によって素材の文字が決まっており皆が同じ文字を書く。共通の参考のお手本もあるため多くの人がこの参考のお手本を頼りに書道作品を書くこととなる。これに対し、大人の書道展となると素材の文字を自分で決めることからスタートする。そのため、皆それぞれに素材が異なる。勿論、共通のお手本は無い。高校生は大人の部類に入ることがあるので、自分で素材を選び書道作品を制作したことがある人もいるのではないだろうか。この点が子どもと大人の書道作品の一番の違いとなっている。今回は、子どもの書道作品のつくり方ではなく、大人の書道作品のつくり方について紹介する。はじめて書道作品を制作する方も是非参考にしてみてほしい。
(Step1)「臨書」or「創作」
書道展覧会会場では、完成された書道作品が展示されている。これらの一作が出来上がるまでに作家はどのような工程を踏んでいるのだろうか。大人の書道作品のつくり方は子どもとは異なる。どのような手順でまず何から決めていくのか一つずつ見ていこう。
まず、はじめにやることは、「臨書」か「創作」のどちらの部分で書道作品を制作するのかを決めることである。一般的に書道展覧会では、両方の部門で出品することが可能となっている。「臨書」とは、 歴代の書道の名品とされている古典法帖を見て真似て書くこと。「創作」とは、 今までになかったものを創り出し書くこと。臨書以外のもの。ということである。一番最初に決めることは、この「臨書」か「創作」のどちらにするのかということとなる。書道初心者の場合、自分がやろうとしているものがこのどちらに当てはまるのかわからなくなってしまっている人も珍しくはない。「臨書」と「創作」は全く異なるものとなるため、ここはきちんと区別し理解する必要がある。
(Step2)作品ジャンル
臨書 | 楷書、行書、草書、隷書、篆書、木簡、甲骨文、金文、仮名など。 | |
創作 | 漢字 | 一字書、小字数書(2字以上~)、多字数書(14字以上~) |
現代文 | 俳句、短歌、近代詩(短詩~長詩) | |
仮名 | 俳句、和歌 | |
篆刻 | 素材選び(墨場必携や漢詩などから抜粋。2字以上~) | |
前衛 |
次に、書道作品のジャンルを決める。ジャンルとは、種別のことであり「臨書」と「創作」によってそれぞれ異なる。「臨書」の場合は、楷書、行書、草書、隷書、篆書などの書体別で考えてみると選びやすい。「創作」の場合は、漢字、現代文、仮名、篆刻、前衛などの部門に分かれる。
「創作」に関しては、このジャンルの時点でさらに一歩踏み込んで決めていく必要がある。例えば、漢字の部門の中には、一字書、少字数書(2字以上~)、多字数書(14字以上〜)などおおよそ3つの分野に分けられる。書道作品として書きたいジャンルは漢字と決まったが、漢字の一字書をやりたいのか、少字数書をやりたいのか、はたまた多字数書をやりたいのかによってそれぞれ書作品は異なる。
また、他の分野においても同様に現代文であれば、俳句、短歌、近代詩などがある。詩を書いてみたいと思った際に、短詩~長詩のどのくらいの字数の詩を選出するのかということを決めていく。
書道作品のジャンルを決める際には、まずは大まかな部門分けをしてから、さらに細かなジャンルを決めていく。既に書道展に出品する作品のサイズが決まっているのであれば、素材選びの時点で選出できるものとできないものがそれぞれ見えてくるかと思う。まずは、どの作品ジャンルにするのかを決めよう。
(Step3)素材(題材)を決める
「臨書」or「創作」。書道の作品ジャンルまで決定したら、次に素材(題材)を決めていく。素材とは、書道作品を書く上で最も重要な “何を書くか。” ということを決めることである。書道作品の良し悪しには、少なくとも書き手の技量が関係するとは思うが、必ずしも技量100%だけでは書道作品は完成しない。筆を手にするのは、人間でありその人自身であるという前提条件を疎かにしてはいけない。いい書き手は、いい素材を選出してくるが、必ずしもいい素材が作品になるかと問われれば、それはまた別問題であると考えている。人が扱うものの最終形態は人によって決まる。普段からどのような生活を心掛ければいいのか、全てが作品に出てしまのだからそんなことを考えはじめたら何も進まない。
素材選びは、その人を既に表現している。どんな素材を選ぶかによって書道作品とする前に、その人がどのような人物であるのかを教えてくれているように感じる。 書道展覧会や公募展へ向けて毎年のように書道作品を数点出品している人たちのほとんどが、Myリストを所有している。作品の素材の候補をノートやスマホに忘れないようにメモをしているのだ。素材とはいきなり探そうと思っても意外とすぐには見つからないことがほとんどとなる。それがわかっているため作家の多くは素材候補を常にストックしている。自分が書道作品として書きたいと思えたタイミングで発表することができたらベストである。いい素材を見つけておきすぐには書作品として発表しないこともあるだろう。素材をあたためて寝かせている作家も多い。時期が到来したら書作品としてみよう。
また、はじめのうちはいい素材がどれでそうでないものが何なのかがわからないという人もいるのではないだろうか。 興味関心から発見や気づきに繋がることも多いため、人、モノ、出来事の多くに触れ感動や体験をする機会を設けてみよう。普段の日常生活こそが宝の宝庫。宝探しをしてみよう。
(Step 4 )草稿の作成
書道作品の素材(題材)が決まったら、早速草稿を作成してみよう。草稿とは、書道作品を書く上での下書きのことである。書道作品を書く際に、いきなり紙を広げて筆を持ち書きはじめるということはまず無い。必ず、選んだ素材をどのようにして表現し書き進めていこうとするのか頭の中で考えているはずである。自分の頭の中で創造して描いているものが筆を通じて腕を伝わり紙面に出てくる。草稿とは、書道作品の構成を考え自分の頭の中を整理することにもつながるとても大切な作業の一つとなっている。書道作品の草稿の描き方に関しては、以前に別コラムでも紹介したのでこちらも合わせて参考にしていただければと思う。
➡書道作品を書くための草稿の描き方【5Step】
この草稿を作成すると同時に、紙のサイズや筆の大きさも決めていく。自分が決めた素材を最も良い状態で作品にする表現方法を試行錯誤していく。紙のサイズや筆の大きさがミスマッチでは表現不足となってしまう。また、紙のサイズは同じであってもタテ・ヨコによっても作風が変わることがある。その点も踏まえて草稿を描いていく。草稿はあくまでも下書きとなるため完璧に仕上げる必要はない。例え、草稿が完璧にできたとしても実際に作品を書いてみると思うようにならないケースはよくある。たくさんの草稿を書いて経験を積み、草稿が書けるようになろう。
(Step 5 )必要用具の選定
草稿が出来上がったら実際に書道作品を書いてみよう。書道に必要な用具を準備し実際に作品を書いてみるとはじめてわかることがたくさん出現する。草稿通りのイメージとなり、このまま書き込みをしていけば書道作品ができるのではないかという手応えを感じられるのであれば、そのまま枚数を重ねていく。一方、草稿に描いていたものとイメージが異なる際は、草稿と用具の選定を再度見直す必要がある。選出した素材に対し、墨(濃墨・淡墨)、紙のサイズ(タテ・ヨコ)、筆の大きさなどはどうか。これらを総合的に考え素材に適した一番良い表現方法を模索していく。ここでもはじめのうちは用具の選定が適しているのか否かわからない人も多いかと思う。そんな時は、身近な書道仲間や師匠に尋ねてみよう。経験が多い人こそ的確なアドバイスやヒントを与えてくれる。また、適切な表現にするために必要であれば書道用具を新調しよう。実際に作品を書きながら草稿の修正を加えていく。この作業を交互に繰り返すことによって少しずつ作品が構築されていく。
書道作品のつくり方として5Stepの手順を紹介した。①「臨書」or「創作」②作品ジャンル ③素材(題材)を決める ④草稿の作成 ⑤必要用具の選定。この順序に従って物事を決めていくことにより書道作品をつくることができる。決める順番がバラバラになってしまうとせっかくのいい素材を活かすことができずに終わってしまうことがある。是非、Stepを踏んで自分で書道作品を制作してみよう。